おいしいねぇ。

僕はよくかーちゃんと二人で昼ご飯を食べに行っていた。
極端に言えばマザコンだった。
今はそうじゃないと思ってるけど、別にマザコンでもいいとも思ってる。


かーちゃんはよく食べた。とても細いのにたくさん食べた。
僕は嫌いなものがなかったので付き合った。
かーちゃんはよく食べながら、「おいしいねぇ。」と嬉しそうに言った。
僕はおいしいと思えば「うん、おいしいね。」と言って、
別においしいと思わなくても「うん、おいしいね。」と言った。


かーちゃんは店のミスでおいしくないものが来ても「おいしくないね。」とは言わなかった。
その代わり、帰りにイタズラっぽく「ね、デザート食べようか。」と言って、デザートを食べ、「おいしいね。」と言った。
僕は甘いものも好きだったので「うん、おいしいね。」と言った。


違いが分かるとやっぱり優劣をつけてしまうものだけど、
優劣が自分の感覚だって知ってればむやみに悪く言うことはなくなると思う。
いいところを「いいねぇ。」って言うのが一番いいんじゃないかな。


成長するには批判も必要だけど、僕の批判がどれだけの価値をもってるんだろう。
それよりももっとはっきり批判できる人が批判して、僕みたいな人は「いいね。もっとがんばれ。」って言った方がいいかもしれないじゃん。


そんな草食動物みたいな考えを持つようになったのもかーちゃんのせいかもしれない。
だけど僕はかーちゃんの考えでいいと思うし、こんな僕の一面が嫌いじゃなかったりする。


今、かーちゃんは全然食べない。「もう食べられない。」と言って僕に食べさせようとする。
でもおいしいものを食べたときは昔のように「おいしいね。」って笑う。
幸せな家庭に生まれたんだな、と思う。